未来人 #2

 
 ぼくは自分という存在を、タイムトラベラーに見つけて欲しい。そう願う少年だった。そしてその人物に、ぼくが歴史的に重要な出来事に関わっていると言ってもらいたかった。今は記憶を無くしているだけで、実は遠い未来で生まれ、理由があって今の時代で暮らしている。迎えに来た。いつの日かそう告げられることを望んでいた。
 自分から接触を試みたことも何度かあった。その内の一つ。
 上下光沢のあるオレンジ色の服を着た若い女性が、自動販売機の前で首を傾げていた。
 「今は1986年ですよ」
 ぼくは暫く様子をうかがった後で、その女性に声を掛けた。いくら小学生の子供だったとはいえ、だいぶ怪しかったと思う。でも、当時のぼくからしたら、怪しいのは目の前の派手な格好をした彼女の方だった。服装もそうだったが、何よりもぼくの目を奪ったのが、彼女の髪の毛の色だった。彼女の短い髪の毛の色は濃いピンク色で、普段から想像を膨らませていたぼくの目には、それが凄く未来的に見えたのだ。
 彼女はぼくにジュースをご馳走してくれた。機嫌良く笑いながら。それから自分が未来人などではないことを、ぼくの質問に答えながら説明してくれた。
 服は自分でデザインしたもので、これとは別に色違いのものが二着あること。髪の毛はずっと染めたくて、朝から美容院に行ってきた帰りであること。ピンク色はギリギリまで迷ってそうしたこと。

 結局、ピンク色の髪の毛だから未来人という訳ではなく、未来の世界では光沢のあるオレンジ色が流行のファッションという訳でもなかったのだ。
 実際に、あの日からはだいぶ未来には進んだのだけれど、今のところぼくの元へは、未来人は現れてない。






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