八尋 耿   就寝時会議

 2022年 8月 7日 日曜日

 就寝時の暗転後、瞼を閉じるだけでそこへ向かう。ここ最近、頻繁に開かれる。
 まずは灰色のビルが浮かび上がる。ぼんやりと。それから、そのビルのエレベーターに乗り込み、ぼくはフロアの一角に設けられた会議室を目指す。議員達が、ぼくの到着を待っているのだが、実は最近まで、彼らや会議の存在自体を忘れてしまっていた。
 遡って思い出せば、数名の議員候補が現れ、その灰色のビルに集まり出したのが二十代半ば。だから議会自体が発足したのも、おそらくはその辺りではないかと思う。ぼんやりと形成された。そんな印象だ。声高らかに宣言された訳ではなかった。
 ぼくも人並みに喜び、悩み、怖れ生きてきた。精神を通過する負荷と緩和の頻度としては、この頃の年齢がピークだったように思う。
 とはいえ、その当時はまだ、会議の場と呼ぶには値しなかった。議題は山のように溢れているのに、数人の意見がガヤガヤと飛び交うだけの雑多なものだった。そう思う。どの意見を誰が発したのかすら定かではないまま微睡み、いつの間にか眠りにつく。そんなことだから、席に着く議員の顔ぶれや性格、出身や性別、年齢といった個性を形作るようなものなどはおろか、その場に何人いるのかさえ長年把握されずにいた。議論の場を映し出す、ぼくの視界は定まっていなかった。それで段々と廃れていき、いつの間にか忘れ去られていったのだ。きっと。

 でも、ここ最近の色濃さはどうだろう。




 何がきっかけで会議を開くのが習慣になったのが、いったいいつからなのか。まだ発展途上とはいえ、いつ頃からだろうか。



 それがここ数年、楽しいのだ。
 大概は、今日一日の出来事を振り返る。あとは明日の予定を楽しみに想像したり、あるいは不安や憂鬱な気持ちに胸を揺らされながら、それ等にどう対応していくかが議論される。
 「このバッジが無いと、当会議室へは入室できません。皆さん、紛失、破損等には十分お気を付けください」
 灰色のビル。同色の壁に囲まれた地下一階駐車場。女性スタッフの声が響き、順にバッジが配布される。本日の予定議員数は45名。規模としては中規模。
           らないようお願い申し上げます」
 別のアナウンスが入る。
 「
 そもそもこのビル。いつ頃建てられたのかだけはおおよそ見当がついていて、会議のようなものが執り行われたことも過去に何度もあった。
 幼少期。真夜中に怖い夢で目が覚めると、夜が明けるまでの数時間、当時崇めたヒーロー達によく守ってもらっていた。空想するのだ。悪夢の残党、恐怖の元凶に立ち向かいながら共闘する場面を。それが、最後はいつも灰色の壁の広い建物の中だったような気がする。
 やがてぼく自身が大人へと成長するとともに、ぼくのヒーロー達もその役目を終えていき、決戦の跡地だけがそのまま残った。月日が経ち、会議の場へと移り変わった。そうではないだろうか。だから、ビルが建てられたのもこの辺り。建物の外観が構築される際、最初に灰色のビルが思い浮かんだのも、幼い頃の名残からで、そうやって少しでも安心できる場所を心理的に選んだのだ、きっと。

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